長調・短調の音楽におけるバロック時代の対位法による音楽では、それまでの技法に和声的な要素が加わる。すなわち、和声の機能の考え方が加わり、調性が強く意識される。声部間で旋律が模倣し合うような対位法もあり、その究極の形がフーガである。フーガも、和声や調性の緊張と弛緩の関係の中で進行する。
この時代に欠かせない重要な点が、オルガンやチェンバロなどの鍵盤楽曲において、高度な対位法技術を習得しなければならなかったことである。ブクステフーデの作品ではそれほど五指の分離を要求する対位法は用いられないが、バッハの作品では五指が分離していないと演奏は不可能なまでに鍵盤上の対位法が追求された。
長調・短調による音楽の対位法(古典派) [編集]
古典派の対位法は、特に初期には旋律と伴奏との関係が重視されたので、目立ったポリフォニー音楽は残されていない。この時代、対位法が顕著となるのは後期であって、ハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンの存在は欠かせない。この3人はいずれも後期バロックのヘンデルやJ.S.バッハからの感化であるが、ハイドンは「天地創造」の第2部の終曲に傑作を残している。モーツァルトは交響曲第41番「ジュピター」や「レクイエム」において、これらの様式を自分なりに消化した形で傑出している。ベートーヴェンは最後の5つのピアノソナタでフガートを挿入した。特に第29番「ハンマークラヴィーア」の終曲のフーガは後の調性崩壊を予期させる構造となっている。このようなピアノソナタで実験されたフーガ様式は第九や大フーガ (ベートーヴェン)・荘厳ミサ曲などで大きな成功に結実した。
長調・短調による音楽の対位法(ロマン派) [編集]
初期ロマン派に入るシューベルトは生前ついに対位法を勉強出来ないで逝ってしまったので、この分野における重要な作品は残していない。そのためミサ曲第5番や第6番は和声学から敷延された擬似対位法でフーガが作られている。
次の世代のフランクの対位法は、彼の得意な「転調技法」と密接に結びいていた。後のサン=サーンスのポリフォニーはむしろ単純になり退化している。
この時代の対位法の大家はブルックナーと言われている。彼はワーグナー流のポリフォニーを更に追求したのであるが、ロマン的に気まぐれの形態ではなくて、むしろバッハ的な反行などの技法を徹底的に使って独自の対斜を生み出し、新しい和声感の表出に成功している。
その他の作曲家であるブラームスやマーラーに於いては、対位法的作風はどこにでも見られるものの特に新しい表現としての技法は余り見られない。
リヒャルト・シュトラウスも同様であったが、対位法的な構成が直接「管弦楽技法」と結びつくことにより新しい世界を創出していった。
近代の音楽における対位法 [編集]
新古典主義の世界的な流行により、対位法の重要性が150年ぶりに見直される機運を示した。しかし、全く新しい技法が提示されたわけではなく、専らバロック以前の伝統を各作曲家が個人で参照しただけで、技法の停滞には違いなかった。ヒンデミットのピアノソナタ第三番の第四楽章と(やや時代が下るが)サミュエル・バーバーのピアノソナタの第四楽章は、近代ピアノフーガの名作中の名作として、ピアニストにも好んで取り上げられている。フェルッチョ・ブゾーニは対位法的幻想曲で、バッハの遺稿を補作した。1930年にはソラブジの怪作「オプス・クラヴィチェンバリスティクム」でいくつかのフーガが配置されているが、こちらはポスト・ブゾーニの衣鉢を継ぐ作品であって晩期ロマン派の拡張作品である。
十二音技法による対位法 [編集]
十二音技法による音楽における対位法は、それまでの対位法が協和音程を中心とした理論に基づくのに対して、不協和音程も積極的に活用・重視している。新ウィーン楽派により対位的感覚での作曲が復活し、エルンスト・クルシェネクが体系化した教科書を執筆し、ルネ・レイボヴィッツは「シェーンベルクとその楽派」と名づけた概論を執筆した。レイボヴィッツの本にも、くどいほど対位法との親和性が強調されている。新ウィーン楽派に属した作曲家はシェーンベルクの徹底した教育により、アカデミックかつ複雑なテクスチュアを好む傾向が強い。代表例にシェーンベルクの弦楽四重奏曲第3番やアルバン・ベルクの抒情組曲等があげられる。
この対位法偏愛は、ウェーベルンが古楽の専門家であったことでさらに拍車がかかり、別の展開を迎える。ウェーベルンはフーガよりもカノンを好んだため、後期は四分音符のみの音楽を書くなど、簡明でルネサンスの対位法の常識へ傾斜してゆく。新ウィーン楽派のほとんどが難解なテクスチュアを好んだのに対し、彼だけが別の道を探っており、晩年は十二音技法の射程の限界であった、音高の操作の問題点の解決中に亡くなった。クジェネクが教会旋法の教科書を出版しているのに対して、シェーンベルクはバッハ以前の対位法について一切のコメントを残していない。
ヨゼフ・マチアス・ハウアーは12音技法を対位法と厳密に結びつける音楽性から遠ざかり、オクターブを平然と使い易経で音列を連結する趣味に走ったために、シェーンベルク一派から追放された。
現代の音楽における対位法 [編集]
十二音技法による対位法では声部の音名は制御できても、音高までは制御できないことがルネ・レイボヴィッツによって明らかにされた。これは稀少な例外であり、音高を操作できるレヴェルに達していたのはウェーベルンとレイボヴィッツのみであった。ほとんどの作曲家は音高を度外視して、専ら音選択に拘った為に、「十二音技法は誰が書いても同じ結果が出る」といった、誤解が生まれることとなった。
以後、現代の音楽の対位法は音高の制御も積極的に試みられるようになり、トータル・セリエリズムへの道を開いた。これは、一種のパラメータ同士の極限の対位法である。音源のみでは技法の最終結果を判別できず、聴取の限界を超えている。
松平頼暁のピッチ・インターヴァル技法や、乱数表をもちいたマイケル・フィニスィーの第二期以降の書式やアルゴリズミック・コンポジションも一種の対位法とみなし得る。
リゲティは自己の作品をポリフォニーの芸術の極致と評したが、後のラッヘンマンになるとそれらさえもすべて否定され、和声音楽でもない対位法音楽でもない、まだ名前の付いていない構造を模索している。この事は演奏のたび毎に偶然曲の構造が変わるケージの考え方の影響が無視出来ない。
教本 [編集]
現代の対位法の教科書は、その多くは原則として類的対位法の形式に沿っているが、それぞれさまざまな特色がある。
日本における教本 [編集]
二声対位法、池内友次郎著
日本における対位法の学習の初期における標準的な教科書となっており、その後引き続き三声から八声の対位法の学習に入るのが通例となっている。ただし、本書に続く教本である三声?八声対位法(通しページになっており、一つの著作と考えられる)は現在絶版となっている。
対位法、クヌード・イェッペセン著、柴田南雄・皆川達夫共訳
主としてドイツ系の作曲の授業に用いられている。現在絶版だが、英訳本(COUNTERPOINT - The Vocal Style of the Sixteenth Century, Glen Haydon訳)は入手可能。ハ音記号の4段譜で実施するためスコアリーディングの力も付く。ウィーン国立音楽大学の入学試験はこの様式による。
対位法、ノエル・ギャロン・マルセル・ビッチュ共著、矢代秋雄訳
パリ音楽院の対位法クラスのための教科書として書かれたもの。
古典対位法、フックス著、坂本良隆訳
Gradus ad Parnassumの抄訳。現在絶版。
十二音による対位法、南弘明著
対位法を十二音列の運用によって習得するために書かれた理論書。
20世紀の対位法、ハンフレー・セアール著、水野久一郎訳
1954年までの諸作曲家の対位法の諸相を分析したもの。(原題はTwentieth Century Counterpoint、Humphrey Searle)
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